春のある休日、用事があって外に出かけた。
歩いていると公園に見覚えのある人影が見えた。
気のせいかもしれないと思いもう一度見ると、やはり同級生の柏宮花鶏(かしのみや あとり)だった。
花鶏も僕に気づいたようで、こちらに駆け寄ってくる。
「奇遇だね」
私服姿だ。Tシャツには漢字が書かれている。これはどういう意味だろう。
「気になる?」
僕の視線に気づいたのか、花鶏は着ていた大きなシャツをめくり、中のTシャツを見せてくれた。隠れていた部分にも漢字が書かれている。
「これは春暁っていう漢詩」
漢字で書かれた詩のようだ。
「春眠暁を覚えずっていうフレーズは有名だよね」
そのフレーズは聞いたことがある。
「春は心地よくてよく寝ちゃうって意味だけど、これは作者が役人の仕事をしてなかったことと関係がある」
どういうことだろう。
「当時、役人の仕事は朝早くからあったみたい。そんな仕事をしてたら、ゆっくり眠るなんてことはできなかっただろうね」
春眠暁を覚えずというフレーズは、仕事がなかったからこそ生まれたフレーズなのかもしれない。
「私もこの気持ちがわかる。学校のある日は早く起きないといけないけど、こういう日は懶眠ができる」
花鶏は今日は遅くまで寝ていたのだろうか。
ふと気になった。花鶏は漢字が好きで、詩も書いている。では漢詩は書くのだろうか。尋ねてみると、
「押韻とか平仄とか、難しいことが多いんだよね。懊悩してる」
とのことだった。漢詩の世界は奥深いらしい。
その後花鶏は詩の話を切り出したが、用事を思い出したので別れることにした。
別れ際の花鶏の表情はどことなく寂しそうだった。
柏宮花鶏について
柏宮花鶏はオリジナルキャラクターです。詳しい設定はこちらにあります。