little star's memory

競プロ、なぞなぞ、その他

花鶏と隠逸

「詩人かな」

たわいない会話をしていたところ、将来の夢の話題になった。

話し相手である同級生の柏宮花鶏(かしのみや あとり)は詩人になりたいらしい。確かによく詩を書いている。

「山紫水明の景色を詩の形で記録する。たとえその景色は失われても、詩は残る。これって、素敵じゃない?」

昔の詩人が見てきた景色は今は存在しないかもしれないけど、詩を通じて想像することはできる。なるほどと思った。

でも、詩を書くだけで生活できるのだろうか。

「うーん……。詩だけで生活するのは難しいと思う」

やっぱり。

「でも、憧憬する。田園に囲まれて、書物に親しみ、詩文を書く、そんな暮らしを」

花鶏は目を閉じてそう語った。きっと自然の中で詩を書く生活のことを考えているのだろう。

「古典にはあまり造詣が深くないけど、昔の中国に隠逸詩人と呼ばれた人がいた。仕事から離れ、悠々自適な生活を送ってた。理想の生活を描いたと評価されてる」

そういう詩人がいたのか。花鶏は話を続ける。

「私が目指す詩人像もここにあるのかも。塵埃を避けて自然の中で暮らす。面倒な仕事や退屈な勉強をしなくていいから」

花鶏が勉強を退屈と呼んでいるのは意外だった。難しい漢字をいっぱい知っているから勉強は好きなんだと思っていた。そう伝えると、

「あれは好きだからやってるだけ。好きなものは勉強できるけど、学校の勉強は退屈」

とのことだった。勉強にも種類があるらしい。

「隠逸詩人も、遠い世界を描いた書物を読んで思いを馳せていた。私が漢字を勉強するのも、こういう学びに近いかも。でも学校の勉強は、社会の役に立つとかどうとかで、つまんない」

花鶏は遠い世界に思いを馳せる勉強が好きらしい。

「いつかは隠逸詩人のように、この社会から抜け出して、自然の中で詩を書いて暮らしたい。それが私の夢かな」

将来の夢の話題はここで終わった。

僕の将来はわからないが、大人になる頃花鶏はここにいないのかもしれないと思うと、少し不思議な気分になるのであった。

柏宮花鶏について

柏宮花鶏はオリジナルキャラクターです。詳しい設定はこちらにあります。

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